2016年8月18日木曜日

南仏、秘密の海岸、ガスパチョの隠し味

家の近所の広場に新しくできたカフェは、広場に向かって小さな丸い黒テーブルとクロス編みの椅子がパリ風にずらりと並べられている。久しぶりにパリの気分でも味わおうかと、座ってカフェを注文する。丸テーブルの黒はそこに映りこんだ景色を反射させ、覗き込むとそこに映るのは広場にそびえ立つ木の緑と、空。映りこむ真っ青の空の色でここがパリではないことを思い出す。

街を歩いていると、歩道に色鮮やかな小さな鳥の死体がよく、落ちている。ぎょっとして目を離せずに思わずじっと見るとそれは色とりどりの花。どこかから風にのってやってきた極彩色の花の屍体。赤、ピンク、オレンジ、黄、紫、白、水色、緑。

くり抜いたように青い空がのぞくニースの街中


ガスパチョ。夏になってからというもの、周りの友達は揃ってガスパチョガスパチョと言い出す。公園でのピクニック、カフェでのランチ、海岸でのアペロ、 何かにつけてガスパチョが登場する。フランス人もスペイン人もイタリア人もルーマニア人もブラジル人もみんなそれぞれに自前(じまえ)のレシピがある。やれトマトの種は入れたらだめだの、やれわたしはパプリカは入れないだの、やれうちは必ずキュウリ入りだよだの、やれオリーブオイルは混ぜずに最後に垂らすのがコツだのと、それぞれにこだわりがあるのが面白い。

日本に居た時は、ガスパチョというものは気取ったレストランの前菜でちょこっといっき飲み程度で出てくるものという印象で特に好きでも嫌いでもなかったのだけれど、ここにきて多種多様なガスパチョを味わいだして美味しいなんて思い出すと、もうあっと言う間に感化されて、”夏はガスパチョ、いいね〜”、となってしまう。

この日ももちろん美味しいガスパチョ登場。


夜、バルコニーに出て植物たちに水をやる。昼間の陽の光をふんだんに吸い込んだ緑の葉っぱたちはその場から水をゴクゴク飲み込んでいくようだ。ふと上を見上げるとバルコニーの天井に張ったビニルの透明の屋根に一筋の光が通っている。空の方へ顔を向けると、それは柔らかなそれでいて凛とした月の光だった。こんなにも煌々と光る月を見るのは何年ぶりだろうか。しばらくただただ見とれる。

観光客がやってこない秘密の海岸があるんだ。そこで夜のピクニックをしようよ。友達に誘われてワインを持ってついていく。車がビュンビュン飛ぶように走る県道をタイミングを見てそれぞれ急いで横切り、そこにひょっこり出てきたような階段を森の中へそろりそろりと下っていく。多い茂る草をかき分けてぐんぐん進む。大きなほら穴をくぐりぬけると目前に広がる、海。日が落ちていくその途中の時間だった。いつもの青に薄くグレーを混ぜたような色の空は海に近づくにつれて金色、薄いオレンジ、それから淡い桃色の層を織りなしている。銀色にテラテラと光る波。赤ワインを2杯ほど飲んだ頃、いつのまにかぽっかりと浮かぶ月。スポットライトのように海面を一筋照らしている。



で、南仏の夏はガスパチョだね〜なんていって、作ってみる。ちょうどスイカの残りを持て余していたから、人生で初めて作ってみるくせに最初から基本をおおいに外れて、スイカ入りのガスパチョ。生のニンニクはあまり得意ではないので、やんわりのお子様風。すっきりとした味は真夏にぴったり。美味しい。これに香ばしいバゲットをひたして食べるのがいい。

スイカのガスパチョ(3〜4人分)
トマト 2個
スイカ 300g
玉ねぎ 小半分
オリーブオイル 大さじ1.5
好みの酢(レモン汁でもいい) 大さじ1
バジル 好きなだけ
塩、胡椒 適量

全部の材料をブレンダーでガーッと混ぜて出来上がり。
でも友達曰く、色が変わってしまうのでオリーブオイルは仕上げに混ぜるのがいいらしい。

満月。カーテンを開いて月の光を入れる。出来上がったガスパチョをテーブルに並べる。
うちの家のガスパチョは、月の光入り。

愛しい日々の連続を♡



♥︎南仏海辺空想録はこちら↓
♥︎Paris私的回想録はこちら↓