2013年6月27日木曜日
おいしい時間
家の近くだし、料理も美味しいし、スタッフも気さくで感じがよくて、しかも美味しいティラミスがあるので、お気に入りのレストランがある。何かにつけてはわたしがそこに行きたいというので、ついに「あの店は君のドラッグだね」と言われる始末。
その夜もそこに行った。
ふたりでしっかり締めのエスプレッソまで味わったところで、「ハイ、どうぞ。お店からのサーヴィスです。」と、パッションフルーツとヴァニラアイスがテーブルの上に置かれた。
「先にパッションフルーツをちょっと食べてみて、よかったらそれからそのヴァニラアイスをパッションフルーツに混ぜてぐるぐるして、食べてみてください。」
初めて食べるパッションフルーツをそろりと口に運ぶわたしを尻目に、彼はもうすでにヴァニラアイスをスプーンでぐるぐるしている。そしてしきりに、小さい頃に好きだったコメディアンのサイン入りのポスターがそのレストランのトイレに貼ってたと興奮して話している。もちろんiPhoneでそのコメディアンの古い映像を検索し、それをわたしは見させられている。
その映像からちらっと目をはずし、ぐるぐるかき混ぜているその彼の手の様子を見ていたら、突然ふわりと妙に幸せな気持ちになった。
また別の夜、久しぶりに親友とふたりきりで友人のレストランでご飯を食べていた時。
ワインをひとくち飲んで、偶然居合わせた知り合いに挨拶をしたり、前菜をつまんだり、パンを齧ったりしながら、ワインも2杯目になる頃に、彼女は少なめになったわたしのグラスにワインを注ぎながら、「初めての感じで。だから大切にしようと思って」ってある人のことを話し始める。その妙にくっきりとした、でも柔らかな彼女の口調を耳にしながら、注がれるグラスの中のワインを見ていた時、同じようにふわりと妙に幸せな気持ちになった。
一緒にいたい相手と美味しいものを食べる、そういう時間を共有するほど幸せなことはない、と思う。
足りないものを意識しない時間。もしそれを持続して自分に感じさせる人がいるとしたら、きっとその人は自分にとってとても大切な人なんだろう。
ぐるぐると混ぜるその手を見ながら、ふとそんな風に思った。
口の中でパッションフルーツのまだ若いすっぱさとヴァニラの甘さがふわりと溶けていく
2013年6月15日土曜日
いい時間 : Un moment agréable
偶然にいい音楽を聴いた
いい時間は、何かのせいにしたくなる
天気がいいから、彼がいるから
この場所だから、彼女が笑うから
本当は、多分
自分が今ここに在るから、
なんだと思うけど
”
この時間のせい?
この天気のせい?
この景色のせい?
この年齢のせい?
訪れた今、いい時間
もしかして今、いい時間?
”
2013年6月10日月曜日
たわいもない素敵な夜、ピッツァ職人のタトゥー
駅から住宅街の方へ入った通りをただひたすらまっすぐに歩き、いつもこの辺だったかなと少し不安になった頃にそのピッツァリアの明かりが見える。
駅から10分、辺りは一人暮らし用の新しいデザイナーズマンションやファミリータイプのマンションが立ち並ぶ住宅街で、しんとしている。窓から柔らかくもれた店内の光と、外に飾ってある電飾の光を見つけたとき、ここだ、とほっとする。
たいていいつもわたしは特別なことがない限り、予約もせず行き当たりばったりに外食するほうなので、特に土曜日の夜なんかは空腹のまま何軒も回るハメになることが多い。
いつもそんな調子なので、そういうわたしを熟知する彼は最近、わたしが「あ!あそこの店に行こうよ」と思いつくとすぐさま、「はい、予約の電話を入れた方がいいよ」と携帯電話を差し出す。iPhoneで店の番号を探すのにモタつくわたしに、インターネットで探す検索ワードまで指定してきたりする。
梅雨入り宣言は気のせいだというのを聞いた。テラス好きなわたしたちは、雨の気配もなく湿気もさほど感じない風が心地いい夜なので、電話でテラスを予約しておいた。
今日でこの店にくるのは4回目だが、テラスで食べるのは初めてだ。
ここのテラスはテラスといっても少々風変わりで、鉄格子で囲われて個室のようになっている。(実はテーマは懺悔室なんだそう!テラスは好きだが、懺悔室はわたしの趣味では、ない)
前回ここに来た時、神経質そうな店主とスタッフ間にはピリピリしたムードが漂っていて、カウンターで少し居心地の悪い思いをしたのだが、今日は土曜の夜で忙しくテンションが上がっているのかスタッフ全員が陽気で、何かにつけて変わるがわるテラスの様子をドアから覗いてはいちいちひと言ふた言話しかけてくる。わたしたちはその都度話を中断しては笑い返し、そのスタッフたちの様子がコメディ映画のようで、ちょっとした言い合いからふたりの空気が少し悪くなった時には、そのコメディアンたちはわたしたちを苦笑させ、話題をピッツアに戻させた。
ビールで乾杯して、サラダを取り分けて、少し言い合いをして、赤ワインを飲みながら特別に半々で作ってもらったトマトベースのピザと4種類のチーズのピザを切り分けて、
ピッツァに載っているめずらしいちょっとクセのある野菜が美味しくて、うんうん美味しいと言い合い、さっきの言い合いにお互い少し謝りあって、少し冷めた残りのピッツァを全部食べた。
話しながらゆっくり食べたのでけっこう満腹になり、でもデザートは選ぶ。
ふたりともティラミスが大好物なのだが、あいにくその店にはティラミスがない。ないもんだから、ティラミス!、ティハミスゥ!などと調子に乗っていろんな発音で連発し合っていたら、ふたりして本気でデザートにはティラミスしか食べたくなくなり、デザートは断って会計をお願いした。彼はすぐさまiPhoneで”ティラミス、福岡”と検索している。(もちろんどこもひっかかるはずはない)
どうぞと会計を差し出した店主の両腕には、目を見張るほど鮮やかにタトゥーがびっしりと彫り込まれている。
おもわず反射的に「タトゥーはあとは体のどこに入っていないのですか?」と聞いてしまった。
前に来た時には、神経質そうな話方の店主だと思ったが、今日は印象が少し違うように感じ、彼はちょうど海パンを履いた時にあたる部分を指し、「ここのあたりが無地の肌で残っています。」とにこにこしながら答えてくれた。
何かモチーフがあるのかと聞くと、「実は全部ピッツァに関することを彫っているんです」と、ぐいと腕をまくった。左腕にはピッツァを持つ招き猫や、二の腕の裏側にはナポリの守り神やイタリアの道化師など、なるほど、ピッツァやイタリアに関するものが鮮やかに描かれている。
へ~!ほ~!とまじまじと腕を見入っているわたしたちふたりを、彼はやっぱりにこにこと笑いながら見ていた。
ご馳走様でした、また来ますとコメディアン(スタッフの人)たちに手を振り、見送る時にくれた抹茶のビスコッティをふたりしてポリポリ食べながら、夜がすすんで少しだけ冷たくなった風を心地よく感じ、わたしたちはティラミスを目指してその店をあとにした。
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