2013年6月10日月曜日

たわいもない素敵な夜、ピッツァ職人のタトゥー


駅から住宅街の方へ入った通りをただひたすらまっすぐに歩き、いつもこの辺だったかなと少し不安になった頃にそのピッツァリアの明かりが見える。
駅から10分、辺りは一人暮らし用の新しいデザイナーズマンションやファミリータイプのマンションが立ち並ぶ住宅街で、しんとしている。窓から柔らかくもれた店内の光と、外に飾ってある電飾の光を見つけたとき、ここだ、とほっとする。

たいていいつもわたしは特別なことがない限り、予約もせず行き当たりばったりに外食するほうなので、特に土曜日の夜なんかは空腹のまま何軒も回るハメになることが多い。
いつもそんな調子なので、そういうわたしを熟知する彼は最近、わたしが「あ!あそこの店に行こうよ」と思いつくとすぐさま、「はい、予約の電話を入れた方がいいよ」と携帯電話を差し出す。iPhoneで店の番号を探すのにモタつくわたしに、インターネットで探す検索ワードまで指定してきたりする。

Rue1_1


梅雨入り宣言は気のせいだというのを聞いた。テラス好きなわたしたちは、雨の気配もなく湿気もさほど感じない風が心地いい夜なので、電話でテラスを予約しておいた。

今日でこの店にくるのは4回目だが、テラスで食べるのは初めてだ。
ここのテラスはテラスといっても少々風変わりで、鉄格子で囲われて個室のようになっている。(実はテーマは懺悔室なんだそう!テラスは好きだが、懺悔室はわたしの趣味では、ない)

前回ここに来た時、神経質そうな店主とスタッフ間にはピリピリしたムードが漂っていて、カウンターで少し居心地の悪い思いをしたのだが、今日は土曜の夜で忙しくテンションが上がっているのかスタッフ全員が陽気で、何かにつけて変わるがわるテラスの様子をドアから覗いてはいちいちひと言ふた言話しかけてくる。わたしたちはその都度話を中断しては笑い返し、そのスタッフたちの様子がコメディ映画のようで、ちょっとした言い合いからふたりの空気が少し悪くなった時には、そのコメディアンたちはわたしたちを苦笑させ、話題をピッツアに戻させた。

Pizza1


ビールで乾杯して、サラダを取り分けて、少し言い合いをして、赤ワインを飲みながら特別に半々で作ってもらったトマトベースのピザと4種類のチーズのピザを切り分けて、
ピッツァに載っているめずらしいちょっとクセのある野菜が美味しくて、うんうん美味しいと言い合い、さっきの言い合いにお互い少し謝りあって、少し冷めた残りのピッツァを全部食べた。


話しながらゆっくり食べたのでけっこう満腹になり、でもデザートは選ぶ。
ふたりともティラミスが大好物なのだが、あいにくその店にはティラミスがない。ないもんだから、ティラミス!、ティハミスゥ!などと調子に乗っていろんな発音で連発し合っていたら、ふたりして本気でデザートにはティラミスしか食べたくなくなり、デザートは断って会計をお願いした。彼はすぐさまiPhoneで”ティラミス、福岡”と検索している。(もちろんどこもひっかかるはずはない)


どうぞと会計を差し出した店主の両腕には、目を見張るほど鮮やかにタトゥーがびっしりと彫り込まれている。

おもわず反射的に「タトゥーはあとは体のどこに入っていないのですか?」と聞いてしまった。

前に来た時には、神経質そうな話方の店主だと思ったが、今日は印象が少し違うように感じ、彼はちょうど海パンを履いた時にあたる部分を指し、「ここのあたりが無地の肌で残っています。」とにこにこしながら答えてくれた。

何かモチーフがあるのかと聞くと、「実は全部ピッツァに関することを彫っているんです」と、ぐいと腕をまくった。左腕にはピッツァを持つ招き猫や、二の腕の裏側にはナポリの守り神やイタリアの道化師など、なるほど、ピッツァやイタリアに関するものが鮮やかに描かれている。

へ~!ほ~!とまじまじと腕を見入っているわたしたちふたりを、彼はやっぱりにこにこと笑いながら見ていた。


ご馳走様でした、また来ますとコメディアン(スタッフの人)たちに手を振り、見送る時にくれた抹茶のビスコッティをふたりしてポリポリ食べながら、夜がすすんで少しだけ冷たくなった風を心地よく感じ、わたしたちはティラミスを目指してその店をあとにした。


M



0 件のコメント:

コメントを投稿