2015年12月17日木曜日

南仏海辺空想録②

住んでいるアパートの建物を出て左にまっすぐ歩く。一つ目を通りすぎて、二つ目の通りを左に曲がる。ボナパルト通り、通称ナポレオン通り。数歩歩いたところにあるカフェで長身の店主に挨拶、その隣の洋服屋のスキンヘッドの店主にも挨拶、少し歩いて雑貨屋の前で店主に挨拶、そのまま歩いてお洒落さんたちが集まるカフェも、薬屋も、ゲイが集まるバーもブラジリアンカフェもクレープ屋も通り越して、角のカフェのウェイターにも挨拶をして、広場に出る。広場 を斜めに横切ってずんずんと歩く。公園に入る。芝生で話こんでいるカップルを横目に通り抜けていく。公園の端にはクリスマスの移動観覧車が特設されている。巨大な樅の木の飾りや蛍光色に光る電飾を横目に公園を途中で抜け出し、右に曲がる。スノッブなカフェも薔薇の香水屋もゴリラのカフェも通り過ぎる。グラムロック好きが集まりそうな、且つ剥製なんかも飾っていそうな、つまりはお洒落なゲイカップルが好きそうなバーが右に見えてくるとそこはもうすぐの目印。そのバーを通り越して、お気に入りのレストランの扉を開ける。


皿にあたるスプーンの音、ワインをつぐ音、グラスが触れ合う音、椅子をひく音、注文をとり終わった給仕の「了解!」という声、Oh là làという驚いた客の声、店の中ではそのすべてのざわめきと音が混ざり合い反響し合っている。席に着き、微発砲の白ワインをひとくち飲む。青カビのチーズと洋梨を包んで焼きあげたパイ。口の中で先ほどの白ワインのまろやかな風味が立ち上がり、チーズと洋梨の調和を引き立たせる。勢いよく給仕係が赤いワインの栓を開く。冷たいもの、熱いもの、口に入れたその瞬間からほろほろととけていくもの、歯ごたえのあるもの、濃厚なドライトマト、香草とクリームをまとったセップ茸、ワインをひとくち飲んでは、ソースをパンに絡めて口に放り込む。この土地の食材の濃厚さもぎゅっと絡める。旨いねえ...マナーはこの際そっちのけ、皿のソースをパンで拭い 取る。葡萄の搾りかすで作った蒸留酒を飲み、胡桃と無花果を頬張る。最後に濃いエスプレッソをいっきに喉に流し込む。


その夜のすべてをのせたテーブルは地上から5cmふわりと宙に上がる。皿やワイングラスがカタカタと揺れて音を立てるが気にしない。座った椅子も宙に浮かぶ。テーブルクロスは風になびき、そのままゆっくり空へのぼる。黒に限りなく近い濃紺の空へ。
わたしたちは相変わらず、見つめ合い、乾杯しては、笑い、会話を続ける。



世界では毎日様々なことが起こり、毎日とてつもない量の情報を耳にし、それでも自分の目の前の日々は変わらない。贅沢な一日も、何もないのに充ち足りた一日も。だからこそもう一度、身体で感じることの基本に戻ってみようと思う。寝ること、食べること、感じること、紡ぐこと、つなぐこと。


南仏の青い青い空には、あまり似合わない街のクリスマスの飾り付けを愛しみながら、パソコンを閉じ、日本の友人に手紙でも書こう。



Bonne vacances!
愛しい日々の連続を♡

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