2015年12月3日木曜日

境の真ん中、連続の先

例えば、積み上げられた膨大な知識よりも、饒舌に語られる見聞よりも、その時目の前に用意された美味しいものをどう味わうか、その時にどんな風に目の前の相手と目を合わすか、どんな会話を楽しむか、そんなことが何よりも大切な時間がある。口から始まることにうつつをぬかす時間。目の前の料理を取り分ける手の動きが、そのあと起こる夜のすべてを決める、そんな時間。

アーモンドバターに塩少々、ザクロ、ミント

ワシッ、ワシッとサラダ菜をちぎり、トマトをザクザク切ってボウルに投げ込む。貰ったはいいけれど使い道に困るほど大量のミントもちぎっていれる。茹で上がったインゲン豆も放り込む。南国の実も南米の穀物も、甘ずっぱいオレンジもカリカリのアーモンドも、とにかく入れたいものをどんどん入れていく。そしてひとつひとつの形が壊れないように底からゆっくり掬い上げるように混ぜる。どんな皿に盛ろうか、クロスは何の柄にしようかと考え始めたときには、少し前ま で頭をいっぱいにしていた出来事なんて、結局は口にいれて飲み込めるくらいちっぽけなことだったと笑えるときがある。

赤キノア、アボカド、オレンジ、クミン、ミント、それにラズベリー

わたしたちは考え、思考し、観念的であると同時に、目の前のことだけに集中し咀嚼し味わいつくすことのできる動物的な術を持っている。嗅覚と触覚を頼りに過ごす甘い一日の感触を記憶している。

そして、連続を慈しみ快楽に身を浸した先、ふいにぐにゃりと歪む空間。
世界は色彩を反転させる。パタリと背後で音がする。
終わりと始まりの世界の扉。ようこそ。

世界旅行ベジプレート

じっと彼の目を覗く。目の奥の、奥の光を。
彼の中には、わたしの見たいものがぎっしりと詰まっている。
そして、彼の瞳の光を表現する術は扉の外にはなかったことを知り、ただひとつ溜め息をつく。
肉体を抜け出てその温もりに抱かれることができると同時に、薄い肌一枚で外界からの境を持つ生き物であることを思い出す。肌の意味を知る。

Raw spicy cubes

この瞬間、わたしが浮かんでいる空間、わたしの体の感覚、わたしの体を揺らすリズム、わたしの体に響く音、目眩いを起こさせる色、記憶、感じていること、あらゆる気配、わたしを包むもの。それらすべてが交差する一点の染み。内側に侵食し、広がる滲み。
浸す、湿らす、染める、紡ぐ、結ぶ。
ここ、この場所に。
全ての音を。
わたしはゆっくり息をする。
濃密な霧のような体の温もりを感じ、境を慈しむ。
魂のための今を、丁寧に紡いでゆく。

愛しい日々の連続を♡

茄子ときのこが隠れたトマトのキッシュ






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