わたしの目の前には扉があった。
深い緑のペンキ、朽ちた木の気配。
時間の経過が放つすえた匂い。
南仏の日差しはどんな時間でも正面から照りつける。
ついうっかりサングラスを忘れると、その日一日中日陰を探して歩くことになる。
アパルトマンの建物には共同の小さな中庭がある。
誰がどのような権利で管理をしているのか知らないが、住民が思い思いに持って来た観葉植物が中庭のふちを囲い、真ん中には小さな木が植えられてあり、その脇には椅子とテーブルが置かれている。
誰の趣味か知らないが、この建物のあちらこちらに、海辺で拾ってきたであろう手のひらサイズの色とりどりの石が転がっている。
中庭の木を囲むようにその石が綺麗に並べられているし、共同のごみ捨て場の角にも幾つか並べられている。
このアパルトマンに越して来た日、雨戸を開け部屋から中庭をのぞこうと窓を開けた時にも、窓のふちに並べられた石たちと目が合った。
建物には直接陽が入らないので、真夏でもひんやりとしている。薄暗い共同の廊下をひたひたと歩き、正面玄関の思い扉を開けると、突然強い光が目を射す。
越してきて二週間、ここの暮らしにも少しずつ慣れてきている。
ひたひたと廊下を歩きながら鞄をごそごそ。
玄関の扉を開ける前にサングラスをかける。
今日もわたしの頭上には突き抜ける濃い青があった。
カルダモン、クミン、シナモン、ジンジャー、スパイスで始める朝
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